投資助言業行政処分事例

 お客様から「投資助言・代理業者に対する行政処分事例について教えてほしい」というご相談をいただきましたので、ご興味のある方もおられるかと思い本ページでは、投資助言・代理業者が行政処分を受けた事例をいくつかご紹介します。

※投資助言・代理業者に対する行政処分事例を詳しく知りたい方は、金融庁ホームページの「行政処分事例集」をご覧ください。

事例①人的構成の不備による行政処分(平成27年3月18日公表)

📌 処分の概要
 この事例では、投資助言・代理業者が業務を適切に遂行するために必要な人的構成を維持できていない状況が問題視されました。
 具体的には、主要な従業員の退職等により、業務運営に必要な体制が著しく不十分となり、金融商品取引法上の登録拒否要件に該当すると判断されたものです。
 その結果、以下の行政処分が下されました:

  • 登録取消
  • 業務改善命令

📝 解説と実務上のポイント
 投資助言・代理業者は、登録後も継続的に「適格な人的構成」を維持することが求められます。
 本事例のように、従業員の退職や人員不足によって業務遂行能力が損なわれた場合、登録そのものが取り消される可能性があります。

✅ 実務者が備えるべき対応策

  • 人的体制の変化を想定した事前準備
    例:代替要員の育成、業務マニュアルの整備、外部人材との連携など
  • 人的構成の維持状況を定期的に確認し、必要に応じて金融庁へ報告・相談する体制の構築
  • 登録時だけでなく、継続的な適格性の維持が求められることを意識する

事例②名義貸しおよび人的構成の不備による行政処分(令和1年6月28日公表)

📌 処分の概要
 この事例では、投資助言・代理業者が以下の2点において重大な違反を行ったと認定されました:

  • 無登録業者に対する名義貸しの実施
  • 業務を適切に遂行するための人的構成が確保されていない状況
    名義貸しは、金融商品取引法第36条の3に違反する行為であり、他者に登録業者の名義を貸して業務を行わせることは厳しく禁止されています。
    また、人的構成の不備については、事例①と同様に、業務遂行能力の欠如が登録拒否要件に該当すると判断されました。
    その結果、以下の行政処分が下されました:
  • 登録取消
  • 業務改善命令(既存の投資顧問契約の適切な終了措置を含む)

📝 解説と実務上のポイント
 この事例は、名義貸しという重大な法令違反と、人的構成の不備による業務不適格性が同時に問題となったケースです。
 特に名義貸しは、第三者が登録業者の名義を使って業務を行うことを黙認・容認する行為であり、金融庁は極めて厳しく対応しています。
 また、人的構成の不備については、事例①でも触れた通り、登録後も継続的に適格な体制を維持することが求められます。

✅ 実務者が備えるべき対応策

  • 名義貸しの禁止を徹底し、業務委託や提携においても法令遵守を確認する体制を構築する
    → 外部との関係性が登録業者の名義を利用する形になっていないか、契約書や実態を精査する
  • 人的構成の維持に向けたリスク管理とバックアップ体制の整備
    → 退職・異動などの人員変動に備えた業務継続計画(BCP)の策定
  • 既存契約の終了対応も含め、行政処分後の業務整理を適切に行う準備をしておく

事例③営業所不確知による行政処分(平成23年8月2日公表)

📌 処分の概要
 この事例では、投資助言・代理業者の営業所が所在不明(不確知)となっていたことが問題視されました。
 具体的な経緯は公表されていませんが、金融庁が業者の所在地を把握できない状態は、業務監督上の重大な支障とされ、法令違反に該当すると判断されました。
その結果、以下の行政処分が下されました:

  • 登録取消

📝 解説と実務上のポイント
 投資助言・代理業者が本店や営業所を移転した場合は、以下の届出を移転後2週間以内に提出する義務があります:

 この届出を怠ると、監督官庁が業者の実態を把握できなくなり、業務の継続性や信頼性に疑義が生じるため、登録取消などの厳しい処分が科される可能性があります。

✅ 実務者が備えるべき対応策

  • 本店・営業所の移転が決まった時点で、速やかに届出準備を開始する
    → 提出期限は「移転後2週間以内」。遅延は処分対象となる可能性あり
  • 届出内容の正確性を確保し、財務局との連絡体制を整備する
  • 移転後の営業所が実際に業務を行える状態であることを確認し、虚偽や形式的な所在地にならないよう注意する

事例④不適切な広告表示による行政処分(令和2年3月12日公表)

📌 処分の概要
 この事例では、投資助言・代理業者が行った広告において、以下のような違反が認定されました:

  • 著しく事実と異なる表示
  • 著しく人を誤認させるような表示
    これらの行為は、金融商品取引法第37条第2項および金融商品取引業等に関する内閣府令第78条に違反するものとされ、顧客保護と業界の信頼性を損なう重大な問題と判断されました。
    その結果、以下の行政処分が下されました:
  • 業務停止命令(新規顧問契約の勧誘・締結に関する業務)
  • 業務改善命令(不適切な広告の掲載停止、内部管理体制の構築、再発防止策の策定、顧客への適切な説明、責任の所在明確化など)

📝 解説と実務上のポイント
 本事例のような広告表示は、虚偽表示や誤認表示の禁止規定に抵触します。
 特に以下のような表現は、違反とされる可能性が高いため注意が必要です:

  • 実績を誇張した表現(例:「必ず儲かる」「100%成功」など)
  • 登録状況や資格に関する誤認を招く表現(例:「金融庁認定」「国家資格者が運営」など)
  • 顧客に誤解を与える曖昧な表現(例:「プロが推奨」「安心保証」など)
    また、金融商品取引業者が広告を掲載する際には、以下の表示義務も忘れてはなりません:
  • 商号(法人名)
  • 登録番号(例:関東財務局長(金商)第〇〇号)
    これらの情報を明示しない場合も、法令違反となる可能性があります。

✅ 実務者が備えるべき対応策

  • 広告文言の事前チェック体制を整備し、誤認表示・誇張表現を排除する
    → 広告審査フローの導入、第三者レビューの活用など
  • 表示義務項目(商号・登録番号等)を漏れなく記載する
  • 広告内容と実際のサービス内容が一致しているかを定期的に確認する
  • 顧客説明責任を果たすための社内教育とマニュアル整備を行う

事例⑤虚偽告知および人的構成の不備による行政処分(公表日不明)

📌 処分の概要
 この事例では、投資助言・代理業者が以下の複数の違反行為を行ったと認定されました:

  • 金融商品取引契約の締結に関する顧客への虚偽告知
  • 勧誘に際して、重要事項について誤解を生じさせる表示
  • 業務を適切に遂行するための人的構成が確保されていない状況
    これらの行為は、金融商品取引法における顧客保護義務違反および業務適格性の欠如に該当し、業者としての信頼性を著しく損なうものと判断されました。
    その結果、以下の行政処分が下されました:
  • 登録取消
  • 業務改善命令(既存の投資顧問契約の適切な終了措置を含む)

📝 解説と実務上のポイント
虚偽告知について
 顧客に対して虚偽の事実を告げる行為は、金融商品取引法第198条の6第2号により刑事罰の対象となります。
 具体的には、以下のような罰則が規定されています:

  • 1年以下の懲役
  • 300万円以下の罰金
  • またはその併科
    虚偽告知や誤認表示は、顧客との信頼関係を破壊する行為であり、業務停止や登録取消に直結する重大な違反です。
    人的構成の不備について
    人的構成の不備に関する詳細は、事例①をご参照ください。
    登録後も継続的に業務遂行に必要な体制を維持する義務があり、退職や人員不足によって適格性が失われた場合は、登録取消の対象となります。

✅ 実務者が備えるべき対応策

  • 顧客対応において、事実に基づいた説明を徹底し、誇張や曖昧な表現を排除する
    → 勧誘時のトークスクリプトやFAQを整備し、社内教育を実施
  • 虚偽告知のリスクを理解し、社内でのチェック体制を構築する
    → コンプライアンス部門による事前レビュー、録音・記録の活用など
  • 人的構成の維持に向けた人材確保・育成・業務継続計画(BCP)の整備

事例⑥顧客への書面不交付等による行政処分(平成19年6月27日公表)

📌 処分の概要
 この事例では、投資助言・代理業者が顧客に交付すべき法定書面を交付しなかったことが問題視されました。
 書面の不交付は、顧客保護の観点から重大な違反とされ、業務運営の信頼性にも疑義が生じる行為です。
 その結果、以下の行政処分が下されました:

  • 業務停止命令
  • 業務改善命令(内部管理体制の強化など)

📝 解説と実務上のポイント
 本事例はやや古いものですが、顧客への書面交付義務の違反は現在でも頻発しやすい実務上のリスクです。
 特に以下のようなケースでは注意が必要です:

  • 契約締結時に交付すべき書面(契約概要、リスク説明、報酬体系など)を失念・省略してしまう
  • 書面の内容が法改正により更新されているにもかかわらず、旧様式のまま使用している
    交付すべき書面の種類や記載内容は、法令改正やガイドラインの変更により随時更新されるため、常に最新情報を把握する必要があります。

✅ 実務者が備えるべき対応策

  • 交付すべき書面の一覧と交付タイミングを社内で明確に管理する
    → 契約締結フローにチェックリストを組み込み、交付漏れを防止
  • 法改正やガイドライン変更に応じて、書面様式・記載内容を定期的に見直す
  • 書面交付の履歴を記録・保存し、万一のトラブルに備える
  • 社内教育を通じて、書面交付の重要性と実務手順を徹底する

事例⑦無登録での外国投資証券の募集・私募取扱いによる行政処分(平成25年10月11日公表)

📌 処分の概要
 この事例では、投資助言・代理業者が登録されていない業務(外国投資証券の募集・私募の取扱い)を行ったことが問題視されました。
 具体的には、外国ファンドの商品内容を顧客に説明し、販売代理会社から紹介料を受領していた行為が、実質的に募集・私募の取扱いに該当すると判断されました。
 その結果、以下の行政処分が下されました:

  • 業務停止命令(金融商品取引業の全業務。ただし、既存顧客との契約解約業務は除く)
  • 業務改善命令(行政処分の内容に関する顧客説明、適切な対応、投資者保護のための措置の実施)

📝 解説と実務上のポイント
 投資助言・代理業者は、登録された業務範囲を超えて金融商品を募集・勧誘することはできません。
本事例では、以下の点が問題となりました:

  • 外国ファンドの商品内容を顧客に説明したことが、実質的な募集・私募の取扱いとみなされた
  • 販売代理会社から紹介料を受領していたことが、業としての関与を裏付ける要素となった
    このような行為は、金融商品取引法に基づく登録業務の逸脱とされ、厳しい処分の対象となります。

✅ 実務者が備えるべき対応策

  • 登録業務の範囲を明確に把握し、助言業務と販売業務を厳密に区分する
    → 外国証券やファンドの紹介・説明は、販売業務に該当する可能性があるため慎重に判断
  • 報酬の受領構造を精査し、販売代理的な関与とみなされないよう注意する
    → 紹介料・成果報酬などの受領は、業務の性質を変える可能性がある
  • 顧客への説明責任と投資者保護の観点から、業務内容を明示し、誤認を防ぐ体制を整備する

事例⑧複数の法令違反による登録取消処分(令和2年3月18日)

📌 処分の概要
 本事例では、D社に対して金融商品取引法に基づく複数の重大な違反が認定され、以下の行政処分が下されました:

  • 投資助言・代理業の登録取消
  • 業務改善命令(既存顧客との契約終了を含む適切な対応の実施)

🚨 主な違反内容(4つの法令違反)

  1. 人的・業務体制の不備
    → 登録業務を遂行するに足る人的構成がなく、業務体制も未整備。
    → 登録していない個人が実質的に事業者を支配していた。
  2. 根拠のない助言による利益誘導
    → 実質的支配者が顧客の取引を利用して自己の利益を図る目的で、正当な根拠のない助言を行っていた。
  3. インサイダー取引の疑い
    → 役員が職務上知り得た情報を自己の有価証券取引に利用していた。
  4. 誤認を招く広告表示
    → 無料メルマガ等で助言実績を過大に見せる記事を配信し、著しく人を誤認させる広告を行っていた。

📝 解説と実務上のポイント
 この事例は、業務体制の不備・利益相反・情報管理違反・広告規制違反が複合的に発生した典型例です。
 特に以下の点が重要です:

  • 登録業務は、適切な人員と体制が整っていなければ遂行できない
    → 実質的支配者が登録外の人物である場合、業務の適法性が問われる
  • 助言行為は、顧客の利益を最優先とし、根拠ある内容でなければならない
    → 自己利益のための助言は、利益相反行為として処分対象となる
  • 役員等によるインサイダー情報の利用は、重大な法令違反
    → 情報管理体制の整備と教育が不可欠
  • 広告・表示は、客観的事実に基づき、誤認を招かないよう慎重に運用することが求められる

✅ 実務者が備えるべき対応策

  • 業務体制の整備と支配構造の透明化
    → 登録者本人が業務を主導し、第三者の影響を排除する
  • 助言内容の根拠を明確にし、利益相反の排除を徹底
    → 顧客の利益を最優先する姿勢の確立
  • インサイダー情報の管理体制を構築し、役職者への教育を実施
    → 情報漏洩・不正利用の防止
  • 広告・表示の適正化と事前チェック体制の導入
    → 実績の誇張や誤認表示を防ぐ
タイトルとURLをコピーしました