暗号資産市場は拡大を続け、個人投資家だけでなく事業者による教育・情報提供のニーズも高まっています。これまで現物暗号資産に関する情報発信は、金融商品取引法の枠外とされることが多く、比較的自由度の高い活動が可能でした。
金融庁の金融審議会で暗号資産の規制強化に関する報告書案が了承されたことを受け、金融庁はこの報告書案を基に、来年の通常国会に金商法改正案を提出する予定です。
この金商法改正案では、現在、資金決済法で規制されている暗号資産が、今後は有価証券と同様に金商法の対象とし、不公正取引を抑止する方針です。さらに、インサイダー取引などの不公正取引を証券取引等監視委員会の調査対象とし、課徴金制度の創設も提案されています。金融商品取引法の改正により、主要な暗号資産が「金融商品」として位置付けられる見通しが示されています。これに伴い、投資助言・代理業の登録義務が拡大する可能性があり、教育・情報提供を目的とする 事業者にとっても、活動の在り方を見直す必要が出てきました。
本記事では、暗号資産投資の現状、法改正の方向性と時期、そして登録を行わず教育・情報提供を続ける事業者が今のうちに準備すべきことについて整理します。
📝 記事概要
本記事では、暗号資産を巡る法規制の大きな転換点について解説しています。これまで現物暗号資産に関する情報発信は金融商品取引法の枠外とされ、比較的自由度の高い活動が可能でした。しかし、金融庁が示す改正方針により、主要な暗号資産が「金融商品」として位置付けられ、投資助言・代理業の登録義務が拡大する可能性が高まっています。これにより、教育・情報提供を目的とする事業者も活動の在り方を見直す必要が出てきました。
記事では、暗号資産投資の現状、海外の規制動向との比較、法改正の方向性と時期を整理したうえで、登録を行わず教育・情報提供を続ける事業者が準備すべきポイントを具体的に提示しています。さらに、小規模事業者が現実的に取り得る対応策を紹介し、免責の明示や透明性の確保、外部専門家との連携など、リスクを抑えながら活動を継続するための実務的な視点を提供しています。
最後に、規制強化は負担であると同時に、事業者の信頼性を高めるチャンスでもあることを強調し、読者が「助言」と「教育」の境界を意識しながら持続的な成長を目指すための指針を示しています。
◇暗号資産投資の現状と情報提供ビジネス
暗号資産は投資対象として広く認知され、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産への関心は高まっています。これに伴い、教育コンテンツや情報提供サービスの需要も拡大しています。セミナー、ブログ、動画、教材などを通じて「投資家教育」を目的とした事業者が増えているのが現状です。
ただし、情報提供の内容によっては「投資助言」と誤解される可能性があり、顧客からの質問対応や具体的な銘柄推奨などは特に注意が必要です。特に、価格予測や「買い時・売り時」といった表現は、教育目的を逸脱して助言とみなされるリスクが高まります。事業者は「知識の提供」と「判断の誘導」を明確に区別する姿勢が求められます。
◇海外の規制動向との比較
暗号資産を巡る規制は日本だけでなく、世界各国で急速に整備が進んでいます。米国では証券取引委員会(SEC)が一部の暗号資産を「証券」とみなし、取引所や事業者に対して厳格な登録義務を課す姿勢を強めています。特に投資助言に該当する行為については、既存の証券規制と同様の枠組みで取り締まりが行われており、教育目的であっても「投資判断を誘導する表現」が問題視されるケースがあります。
欧州連合(EU)では、2024年に施行された「MiCA(Markets in Crypto-Assets)」規制が代表的です。MiCAは暗号資産の発行者やサービス提供者に包括的なルールを課し、透明性や投資家保護を重視しています。ここでも「助言」と「教育」の境界は厳しく管理されており、事業者は免許や登録を通じて活動の正当性を確保する必要があります。
こうした海外の事例と比較すると、日本の規制はこれまで相対的に緩やかでしたが、今後の法改正によって国際的な水準に近づくことが予想されます。つまり、日本国内の事業者も「海外では既に規制対象となっている行為」が国内でも規制される可能性を前提に準備を進めるべきだと言えます。
◇法改正の方向性と時期
金融庁は主要な暗号資産を金融商品取引法の対象に含める方針を示しており、改正案は2026年通常国会での提出が目指されています。本改正案が成立すれば、投資助言・代理業の登録義務が拡大し、従来は登録不要とされてきた現物暗号資産への助言も規制対象となる可能性があります。
さらに、情報開示義務やインサイダー規制の導入が予定されており、投資家保護の観点から事業者の活動に影響を与えることは避けられません。これまで「グレーゾーン」とされていた領域が明確に規制対象となることで、教育・情報提供ビジネスのあり方は大きな転換点を迎えることになります。
◇登録せずに教育・情報提供を続ける事業者が準備すべきこと
教育・情報提供を目的とする事業者が法改正後も登録を行わず活動を続ける場合、以下の点に留意する必要があります。
・表現の線引き:特定銘柄の推奨や売買判断につながる表現は避け、一般的な知識や市場動向の紹介に留める。
・免責の明示:教育目的であることを契約書や利用規約、記事冒頭に明記し、助言ではないことを強調する。
・顧客対応ルール:質問への回答は「一般的な情報提供」に限定し、個別判断を促さない。
・コンテンツレビュー:定期的に専門家や第三者にチェックを依頼し、助言に該当しないか確認する。
・リスク説明:顧客に対して「投資判断は自己責任」であることを繰り返し伝える。
加えて、事業者は「教育コンテンツの透明性」を高める工夫も必要です。例えば、情報の出典を明示する、更新日を記載する、複数の視点を提示するなど、読者が「偏った助言ではない」と理解できる仕組みを整えることが信頼性向上につながります。事前に準備することを表にまとめると次のようになります。

また、法改正後は監督当局によるチェックが強化される可能性があるため、内部規程やコンプライアンス体制を簡易的にでも整備しておくことが望ましいでしょう。これは小規模事業者にとって負担に感じられるかもしれませんが、リスクを軽減し、顧客からの信頼を維持するための投資と捉えるべきです。
◇小規模事業者が取り得る現実的な対応策
法改正後も教育・情報提供を続けたい小規模事業者にとって、登録やコンプライアンス体制の整備は大きな負担となり得ます。しかし、現実的な対応策を講じることで、リスクを抑えつつ活動を継続することは可能です。
第一に、活動の範囲を「一般的な教育」に限定することです。具体的な銘柄推奨や価格予測を避け、投資の基本原則や市場の仕組みを伝えることに注力すれば、助言と誤解されるリスクを減らせます。
第二に、外部専門家との連携を最小限のコストで取り入れることです。例えば、定期的に弁護士や行政書士にコンテンツをレビューしてもらうことで、法的リスクを早期に把握できます。これは「顧客への安心感」を高める効果もあります。
第三に、免責や利用規約を簡潔に整備することです。契約書やサイトの冒頭に「本サービスは教育目的であり、投資助言ではない」と明記するだけでも、万一のトラブル時に防御線となります。
第四に、情報発信の透明性を高めることです。出典を明示し、複数の視点を提示することで「偏った助言ではない」と読者に理解してもらえます。小規模事業者ほど「信頼性の演出」が重要になります。
最後に、将来的な登録を視野に入れた段階的準備も現実的です。すぐに登録を行うのではなく、内部規程や顧客対応ルールを簡易的に整備し、必要に応じて登録へ移行できる体制を整えておくことが、持続的な成長につながります。
◇まとめ
暗号資産を巡る規制は国際的に強化されており、日本もその流れに沿って大きな転換点を迎えようとしています。教育・情報提供を目的とする事業者にとっては、海外の事例を参考にしながら「助言」と「教育」の境界をより明確にすることが不可欠です。
小規模事業者は、活動範囲の限定、免責の明示、外部専門家との連携、透明性の確保といった現実的な対応策を講じることで、法改正後もリスクを抑えつつ活動を継続できます。規制強化は負担であると同時に、信頼性を高めるチャンスでもあります。事業者はこの変化を前向きに捉え、持続的な成長のための準備を今から始めることが重要です。
💬よくある質問(Q&A)
Q1. 法改正後、ブログやYouTubeで暗号資産の情報を発信するだけでも登録が必要になりますか?
A1. 一般的な市場動向や基礎知識の紹介であれば登録は不要と考えられます。ただし、特定銘柄の推奨や「買い時・売り時」といった表現は投資助言とみなされる可能性があるため注意が必要です。教育目的であることを明示し、表現を工夫することが重要です。
Q2. 「免責事項」を書いておけば、助言に該当しないと考えてよいのでしょうか?
A2. 免責事項はリスク軽減に役立ちますが、それだけで完全に安全とは言えません。免責を明示した上で、コンテンツの内容や顧客対応の仕方を助言に該当しないように設計することが不可欠です。
Q3. 小規模事業者が登録を検討する場合、どのような準備が必要ですか?
A3. 登録には内部規程やコンプライアンス体制の整備が求められます。小規模事業者の場合、まずは顧客対応ルールや情報発信の透明性を整え、外部専門家に相談しながら段階的に準備を進めるのが現実的です。
Q4. 海外の規制と比べて、日本の事業者はどの点に注意すべきですか?
A4. 米国やEUでは既に「教育目的でも投資判断を誘導する表現」が規制対象となっています。日本でも同様の方向に進む可能性が高いため、海外の事例を参考に「助言と教育の境界」を意識したコンテンツ作りが求められます。
Q5. 法改正が成立する前に事業者がやっておくべきことは何ですか?
A5. 今のうちにコンテンツの表現を見直し、免責事項を整備し、外部専門家にチェックを依頼することが有効です。さらに、内部規程や顧客対応ルールを簡易的に整えておけば、改正後の対応がスムーズになります。
参考サイト
・金融庁「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」関連報告
・CoinDesk Japan「【独自】金融庁回答、暗号資産の「健全な取引環境の整備不可欠」──存続危機訴える業界と溝」
・野村総合研究所(NRI)のレポート「米国の暗号資産は変わるか?」
関連ページ
・【解説】暗号資産に関する助言を行う際の注意点
・【解説】暗号資産の金融商品取引法への枠組み移行の方針が暗号資産への投資助言に与える影響
✍ 執筆者プロフィール
金融法務コンサルタント。元行政書士として、IFA登録や投資助言・代理業登録の支援実績多数。
現在は、ブログ・noteを通じて、金融ビジネスに関心のある実務家向けに情報発信を行っています。現在公開中の有料note記事は、投資助言/IFA有料note紹介で紹介していますので、ご興味のある方は、ご覧ください。
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